澤芳樹, 髙橋政代

髙橋 医療に限らず,どんな技術でも進歩の歴史は試行錯誤の過程です。現在の再生医療を航空機の開発になぞらえれば,「初飛行を終えたところ」でしょう。 今は大陸間を安全に飛ぶ航空機も,ライト兄弟による飛行では300メートルほどしか飛んでいません。「短距離しか飛べないなら,飛ばす意味がない」と批判されても,始まりはそこからでした。 澤 航空機開発の軌跡は心臓移植手術の歴史とも重なります。ヒトからヒトへの心臓移植は1967年,南アフリカで行われたのが最初です。このときのレシピエントは,術後たった18日間しか生存していません。それでも,世界では毎年実施され続け,地道に改良が重ねられました。シクロスポリンの登場というブレークスルーを経て,1980年代にようやく治療法として確立し,移植を受けて10年,20年と生きる患者も多くなりました。